2020年8月~2021年3月
概要
当プロジェクトの目的は、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、必ずしも会話を目的としないブックカフェに注目し、その「静かに本を読みながらカフェを楽しむ空間」に対する人々の選好を明らかにすることです。このプロジェクトは2020年度の「演習III」の中で展開され、16期生(2020年度3回生)を中心に取り組みました。また、直近の2年間に取り組んだプロジェクトと同様に、今回もFAAVOしが(by CAMPFIRE)さんのサイトにて、クラウドファンディングにより資金を調達しました。目標額を30万円に設定し、多方面にアピールすることによって、34人もの方々から目標額を超える310,000円のご支援をいただきました。
ブックカフェは、店内での新型コロナウイルスの感染リスクが小さく、その対策コストも比較的低く抑えられることから、いまだ収束しないコロナ禍の中で、持続的な経営を可能にする力を秘めています。しかしながら一方では、どうしても利用客の回転率が下がってしまうため、経営者にとっては売り上げの減少に対する不安が拭えません。当活動は、コロナ禍に適応するだけでなく、知の遺産の保存、地域コミュニティの形成、空き家問題の解決など、様々な社会貢献の側面を持つブックカフェが、人々にどれほど評価されるのかを金銭的に明らかにし、その開業を考える経営者の皆様の合理的な判断を助けることに貢献します。
本研究における野心的な試みは、既存の屋内型のブックカフェだけでなく、より感染リスクが小さい屋外型のブックカフェに対する選好を明らかにすることです。そのために、本活動では、琵琶湖の畔にある大津湖岸なぎさ公園で、屋外で読書と共にカフェを楽しむイベント「渚と森の青空ブックカフェ」を開催しました。そのイベント参加者を対象に選択型実験を含むアンケート調査を行い、その屋外型ブックカフェに対する選好を分析しました。
活動と成果
メンバーはまず、琵琶湖の畔にある大津湖岸なぎさ公園にて、屋根もなく、イスとテーブルが並べられただけの、完全に開かれた屋外型のブックカフェ空間を創り出し、滋賀に店舗を構えられる古書店の皆様にご出店いただいて、自然豊かな空間で読書と共にカフェを楽しむイベント「渚と森の青空ブックカフェ」を開催しました。さらに、滋賀の古書店とブックカフェを紹介するパンフレット「書をたずさえてカフェに行こう」を作成し、そのイベントで配布しました。
分析の結果、人々はブックカフェであれば、普通のカフェと比べて、コーヒーの価格が140円まで高くなってもよいと考えていることが示されました。加えて、「オープンテラス」と「ブックカフェ」のカフェ要素はそれぞれ人々の効用にプラスの影響を与える一方で、それらが組み合わされると、その効果が部分的に相殺されるという結果も導かれました。この結果は、人々は外の騒音にさらされるオープンなテラス席よりも、閉じられた静かな空間でブックカフェを楽しみたいと考える傾向があることを含意します。さらに、トラベルコスト法により、当団体が開催した青空ブックカフェイベントから受ける人々の満足感は、訪問一回あたり371円であることも示されました。ブックカフェとオープンテラスの相殺効果は予想外の結果でしたが、人々がブックカフェでは140円高いコーヒーの価格を受け入れるという知見は、今後のブックカフェの普及を期待させるものだといえます。加えて、このコロナ禍の中、青空ブックカフェイベントが一定の社会便益を生み出すという知見は、地域振興の観点から、今後の公共スペースの使い方について新たな示唆を与えることでしょう。
報告書の抜粋(分析部分)は以下よりダウンロードいただけます。
また、本研究の成果は、本学経済学部の学生論集にも掲載される予定です。