2012年4月~2013年3月
概要
このプロジェクトの目的は、外見上の区別が困難で、試飲してもすぐにはその特徴が把握できない、いわゆる経験財としての特性を持つ「ミネラルウォーター」について、どのような販売戦略が有効かを見極めるところにあります。この課題に対して当活動では、「一定期間継続的に飲んでもらう」ことにより、人々はその特徴を把握し、より質の高い水を選好し、それを購入するようになるという仮説を立て、その実証に取り組みました。その対象としたのが、滋賀県岩間山で採水される超軟水の「岩深水」です。「岩深水」は水晶岩盤から湧水した水晶水で、二酸化ケイ素を含むため、まろやかで口当たりがよいのが特徴です。この「岩深水」を一定期間飲んでもらう実験協力者と、飲まない協力者との間で、ミネラルウォーター属性に対する選好やその購買行動を比較し、そうした経験が消費者選好・行動にどのような効果を与えるかを分析しました。
立命館大学では2012年度、正課外における学生の学びの集団形成を支援することを目的に、「立命館大学学びのコミュニティ集団形成助成金」制度が実施され、このプロジェクトは、その2012年度の助成対象活動の一つに採択されました(20万8000円)。当ゼミ9期生(2012年度3回生)を中心に32人のメンバーで一体となって取り組んだ、当ゼミ始まって以来の一大プロジェクトです。
活動と成果
メンバーはまず、本学の職員に依頼して、92名の実験協力者を集めました。その後、そのサンプルをランダムに二つに分け、一方の方々に「岩深水」を二本お渡しし、一定期間飲んでいただきました。その後、両サブサンプルを対象にアンケート調査を実施し、コンジョイント分析により、軟水に対する選好に違いが生じるかどうかを検討しました。同時に、「岩深水」を本学の生協で実験的に販売してもらい、その販売量に差が生じるかどうかについても調査しました。
結論的には、ミネラルウォーターを一定期間継続的に飲む経験が消費者選好・行動に与える影響はそれほど大きくないと言わざるを得ません。コンジョイント分析の結果からは、超軟水である「岩深水」を一定期間飲んでも、それが軟水に対する選好を強めることにはなりませんでした。販売実験の結果でみても、一部たくさん購入する人はいても、「岩深水」を飲んだ人々とそうでない人々の間で、実際に「岩深水」を購入した人の数には差は生まれませんでした。ただし「岩深水」を飲んだ人は、単一水源から採水された水に対して、そうでない人よりも大きな支払意志を持つことがわかりました。人々はある特定の水源から採水された水を飲むことで、そうした採水地がわかる水を飲むことに対する安心感をより強く覚えるのかもしれません。
一方で支払意志額の計算結果からは、硬水を基準としたときの軟水に対するWTPプレミアムは29.2円/500ml、HACCPにより管理された水に対するWTPプレミアムは61.1円/500mlであることがわかりました。上述の通り、「岩深水」は超がつくほどの軟水であり、また滋賀県が独自に認証するS-HACCPを取得しています。これら二つのWTPを合計すれば約90円になりますので、この結果から、人々は通常のミネラルウォーターと比較したときに、「岩深水」に対して追加的に90円まで支払ってもよいと考えることが予想されます。「岩深水」の価格は150円/500mlですから、この商品が市場で選択される確率は極めて高いといえそうです。